経営のリアル

夏の弁当づくりは「おいしい」より「安全」——食中毒ゼロ3年の弁当屋がやっている加熱・小ロット製造・保冷の声かけ

この記事の結論

弁当屋にとって夏は、一年で一番神経を使う季節です。私の店では夏場、「おいしい」と「安全」が両立しない場面では、迷わず安全を取ると決めています。普段は完熟手前の絶妙な火入れにしているゆで卵も、夏はしっかり完熟。加熱時間は全体的に長くします。

それに加えて、製造は小ロットにして「作ってから食べるまでの時間」を短くし、保冷剤は「持ってきてください」とくどいほど声をかける。この積み重ねで、開業から3年、食中毒はゼロです。夏だけ変えていることを全部書きます。

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食中毒(開業から3年)
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夏だけ変えること(加熱・ロット・声かけ)
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火通りのクレーム(即日対応)

前提:弁当は「作ってから食べるまで」が長い商売

人口5万人未満の地方都市で弁当・惣菜店を2店舗経営して3年目です。飲食店営業とそうざい製造業の2つの許可を取って運営しています。

弁当がレストランと決定的に違うのは、作ってからお客様が食べるまでに時間が空くことです。店を出た瞬間から、弁当は私たちの手を離れます。車の中に置かれるかもしれないし、食べるのは数時間後かもしれない。夏場はこの「手を離れてからの時間」が一番のリスクになります。

だから夏の対策は、厨房の中だけで完結しません。①作る段階(加熱)、②仕上げる段階(ロット)、③手渡した後(保冷と声かけ)の3段階で考えています。

①加熱:ゆで卵は「完熟手前」をやめて完熟にする

夏場は、加熱時間を全体的に長くします。象徴的なのがゆで卵です。

私は、ゆで卵は完熟手前程度にとどめておくのが一番おいしいと考えています。だから普段は、そこを狙った絶妙な火入れをしています。でも夏場はやめます。しっかり完熟まで火を入れます。

正直に言えば、味は少し落ちると思っています。それでも夏は「おいしい」より「安全」を優先します。おいしさは秋になればまた戻せますが、食中毒は一度でも起きたら取り返しがつきません。「どちらを取るか迷ったら安全」とあらかじめ決めておくことで、現場の判断がぶれなくなります。

②小ロット製造:100個を一気に作らない

盛り付けの工程では、ロットの組み方を工夫しています。

たとえば100個の弁当を一気に流れ作業で作ると、最初に盛り付けたおかずは、最後の1個が完成するまで長時間常温に置かれることになります。出来上がりまでの時間が長いほど、劣化は進みます。

そこで、1ロットを小さく区切って、1個あたりの「作り始めてから完成するまでの時間」を短くするようにしています。作ったらすぐ完成させ、すぐ販売温度帯へ。元生産技術職なので、これは工場のライン設計と同じ発想です。ロットを小さくすると段取り替えは増えますが、夏はスピードより「滞留させないこと」を優先します。

生産数や段取りの管理は生産指示のデジタル化売上管理の記事で書いた仕組みに乗せています。

③保冷と声かけ:「配る」より「持ってきてもらう」

店を出た後の対策は、保冷剤と声かけです。

保冷剤も保冷バッグも店に用意してあります。ただ、どちらも使い回しができるものなので、極力お客様に持参してもらえるように声かけをしています。毎回新品を配るより、お客様の家にある保冷剤を持ってきてもらう方が、コストの面でも無駄がありません。

InstagramなどのSNSでは、夏の間ずっと同じことを言い続けています。「保冷剤を持ってきてください」「涼しいところで保管してください」「早めにお召し上がりください」——正直、くどいと思われているかもしれません。それでも繰り返します。店を出た後の弁当を守れるのは、お客様への声かけだけだからです。

番外:夏は塩をほんの少しだけ足す

衛生の話からは少し離れますが、夏だけ変えていることがもうひとつあります。味付けの塩分を若干上げることです。

夏場は汗をかいて塩分が抜けるので、ほんの少し塩を効かせたほうが体に合いますし、食欲も出ます。暑さで食欲が落ちる季節に「もう一口食べたくなる」味に寄せておくことは、後で書く夏の売上対策にもつながっています。

「火が通っているのか?」——一度だけ受けたクレームの話

3年間で一度だけ、お客様から「火が通っているのか?」というクレームを受けたことがあります。夏場ではありませんでしたが、弁当屋にとって一番重いタイプの指摘です。

このときの対応は明確でした。すぐにお客様のお宅まで伺って謝罪し、現物を回収する。そのうえで社内で問題発生の原因を探り、再発防止策を決める。この順番です。

幸い、衛生上の実害につながったことは一度もなく、食中毒ももちろんゼロのままです。ただ、この経験から学んだのは、クレーム対応はスピードがすべてだということです。食べ物への不安は、時間が経つほど大きくなります。「後で電話します」ではなく、その日のうちに顔を見せて回収する。小さな店の信用は、この初動で決まると思っています。

夏の売上は落ちる。でもお盆が平準化してくれる

正直に書くと、夏場の売れ行きは冬場に比べて落ち込みます。衛生の問題ではなく、暑さで食欲が落ちることが理由だと考えています。

ただし、夏にはお盆があります。オードブルや仕出し弁当といった高単価の注文が入る時期で、日販の落ち込みを月単位で見るとかなり平準化されます。「夏は売れない」と日々の数字だけ見て慌てるのではなく、お盆の受注を取りにいく前提で月の計画を立てる——というのが3年やってきた実感です。

売れ残りを値引きせずどう扱うかは値引きゼロの記事、廃棄率の下げ方は廃棄率5%の記事に書いています。

HACCPの記録は、アプリで始めやすくなっている

衛生管理の土台として、小規模な飲食店にも「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が義務付けられています。中身は、衛生管理計画を立てて、毎日の温度チェックなどを記録に残すことが中心です。

身構える人が多いのですが、今はスマホアプリで記録できるものがあり、始めやすく分かりやすくなっています。紙の記録簿を毎日つけるイメージで敬遠しているなら、まずアプリを見てみることをすすめます。仕組みで続けやすくする、という点では他の業務と同じです。

食品衛生責任者の講習についてはこの記事に書きました。

まとめ:夏の衛生管理は「決めておく」ことがすべて

夏の対策を並べると、加熱を長く、ロットを小さく、声かけをくどく——どれも地味です。特別な設備投資ではなく、「迷ったら安全を取る」と先に決めておいて、現場の判断をぶれさせないことが核だと思っています。

3年間食中毒ゼロという結果は、この積み重ねの成果だと思う一方で、運の要素もゼロではないと思っています。だから「ゼロだから大丈夫」ではなく、今年の夏も同じことをくどいほど繰り返します。この記事も、夏の運用が変わったら追記していく予定です。

よくある質問FAQ

夏場の弁当で食中毒を防ぐために一番重要なことは何ですか?

ひとつに絞るなら「おいしさと安全が両立しない場面では、迷わず安全を取る」と決めておくことだと思います。私の店では夏場は加熱時間を長くし、ゆで卵は完熟までしっかり火を入れます。加えて、作ってから食べるまでの時間を短くする工夫(小ロット製造・すぐ食べてもらう声かけ)を重ねています。

夏はメニューの味付けを変えますか?

若干変えています。夏場は汗をかいて塩分が抜けるので、味付けの塩分をほんの少しだけ上げます。衛生対策とは少し別の話ですが、そのほうが食欲も出るので、夏の売れ行きにもプラスに働いていると感じています。

弁当に保冷剤は付けるべきですか?

私の店では保冷剤も保冷バッグも用意していますが、どちらも使い回しができるものなので、極力お客様に持参してもらえるよう声かけをしています。SNSでも「保冷剤を持ってきてください」「涼しいところで保管を」「早めにお召し上がりください」を、くどいと思われるくらい繰り返し発信しています。

HACCPの衛生管理記録は大変ですか?

今はスマホアプリで記録できるものがあるので、始めやすく分かりやすくなっています。小規模な飲食店に求められるのは「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で、毎日の温度チェックなどを記録に残すことが中心です。紙の記録簿にこだわらず、続けやすい方法を選ぶのがいいと思います。

夏場は弁当の売上が落ちますか?

私の店では落ちます。衛生の問題ではなく、暑さで食欲が落ちることが理由だと考えています。ただし夏にはお盆があり、オードブルや仕出し弁当といった高単価の注文が入るため、月全体で見ると売上は平準化されています。日販の落ち込みだけを見て慌てないことが大事です。