弁当・惣菜を店内の厨房で作って自分の店で売るだけなら、多くの場合「飲食店営業許可」だけで足ります。私が「そうざい製造業許可」も取った理由は、作った惣菜をパック詰めして他の販路にも広げたかったからです。
この記事では、2つの許可の違い・施設基準・事前相談で聞かれたこと・検査当日・費用・許可証が下りるまでを、弁当屋の実体験でまとめます。結論を先に言うと、最初から広いほうの基準で施設を設計しておくと、あとから販路を広げやすい——これが一番伝えたいことです。
前提:弁当・惣菜店を営む前の話
私は人口5万人未満の地方都市で弁当・惣菜店を営んでいます(詳しくはこの人について)。開業手続きの全体像は飲食店の開業手続きを全部やったにまとめていますが、この記事は保健所の営業許可だけを深掘りする内容です。食品衛生責任者の資格については別記事を参照してください(営業許可の申請には食品衛生責任者の設置が前提になります)。
営業許可は2021年の食品衛生法の改正で業種の区分が整理され、それまで届出だけで済んでいた業態の一部が許可制になりました。「そうざい製造業」もこの改正で位置づけが明確になった許可業種のひとつです。制度は自治体の運用差もあるため、この記事はあくまで私の地域・私の店での実例として読んでください。
なぜ「飲食店営業許可」だけで足りなかったのか
弁当・惣菜を店の厨房で作り、その店の店頭で売る。これだけなら飲食店営業許可の1本で問題ありません。開業当初の私もそのつもりでした。
方針が変わったのは、委託販売や小売店への卸を視野に入れ始めたときです。作った惣菜をパック詰めして、自分の店以外の場所で継続的に売るとなると、それは「その場で売る調理」ではなく「流通する食品の製造」に近づきます。ここで必要になるのが、そうざい製造業許可でした。
「まず飲食店営業許可だけで開業して、必要になったら製造業を追加すればいい」とも考えました。ですが後から追加すると、施設基準を満たすための追加工事が発生する可能性があります。それなら最初から製造業の基準に合わせて設計し、開業のタイミングで両方申請したほうが、結果的に安く早い——そう判断しました。
飲食店営業許可とそうざい製造業許可の違い
ざっくり言うと、こういう区分です。
- 飲食店営業許可……その場で提供・販売する調理を対象にした許可。店内飲食・持ち帰り弁当・店頭での惣菜販売はこちらでカバーできることが多い。
- そうざい製造業許可……パック詰めなどして流通させる惣菜を「製造」する行為を対象にした許可。他店への卸や、継続的な委託販売を想定するならこちら。
施設基準の大枠は共通していますが、製造業のほうが区画の分け方・手洗い設備・作業動線などで求められる水準が一段厳しい傾向があります。逆に言えば、製造業の基準を満たしておけば飲食店営業の基準もほぼ満たせるということです。私はこの発想で、施設全体を製造業基準に寄せて設計しました。
ただし「どちらの許可が必要か」「両方要るのか」は、扱う品目・製造量・販売形態によって変わります。ここは自己判断せず、必ず保健所の事前相談で確認してください。私も最初の相談で「この売り方ならこの許可が要る」を一つずつ潰していきました。
施設基準:検査で実際に見られたところ
検査で確認されたのは、細かく挙げるときりがありませんが、大きくは次のような点でした。
- シンク(槽)の数……洗浄用のシンクとは別に、手洗い専用の設備が必要。数と配置を見られました。
- 手洗い設備……水が自動で止まる、または肘・足で操作できるなど、手を再汚染しない方式が求められました。
- 区画の分け方……調理・製造のエリアと、そうでないエリア(客用・搬入など)の区分。製造業では特にここを見られます。
- 床・壁・天井……清掃しやすく、水や汚れがたまりにくい素材・仕上げになっているか。
- 冷蔵・冷凍設備……温度計が付いていて庫内温度が確認できること。
- 更衣・手洗いの動線……作業に入る前に手を洗い、清潔な状態で厨房に入れる動線になっているか。
これらは設計の段階で織り込んでおかないと、後から直すのが大変な項目ばかりです。特にシンクの数・区画・床壁は、工事が終わってから「足りない」と言われると作り直しになります。だからこそ、次に書く事前相談が効きます。
事前相談で図面を見てもらう——ここが9割
私は工事に入る前に、図面を持って保健所に事前相談に行きました。設計に不安があったので、建築の知識がある知人にも同席してもらいました。
相談で聞かれた(=伝えた)のは、こんなことです。
- どんな品目を、どのくらいの量作るのか
- 作ったものを、どこで・どういう形で売るのか(店頭か、卸か、パック詰めか)
- 厨房の動線と、シンク・手洗い・冷蔵設備の配置
この時点で「この売り方なら製造業許可も要る」「ここの区画はこう分けて」といった指摘をもらえたので、工事前に図面へ反映できました。事前相談をせずにいきなり工事していたら、検査で複数の指摘を受けて作り直していたはずです。工事完了予定日と設備搬入の予定も伝え、検査の予約もこの流れで押さえました。
検査当日:指摘は軽微で済んだ
工事と設備の搬入が終わったあと、予約していた日に保健所の担当者が来て施設検査を受けました。担当者は図面と実際の施設を照らし合わせながら、シンクの数・手洗い・区画・冷蔵温度計などを一つずつ確認していきます。
結果として指摘は軽微なものだけで済みました。事前相談で図面を詰めていたおかげです。もし基準を満たさない点があれば、その場で是正を求められ、直してから再検査になります。再検査になるとその分だけ許可も遅れるので、一発で通すために事前相談があると考えたほうがいいです。
費用と、許可証が下りるまで
申請手数料は業種ごとにかかります。私は2業種を申請したので、手数料も2件分でした。金額は自治体・業種によって異なりますが、1業種あたりおおむね1万数千円〜2万円台が目安です。正確な額は管轄の保健所で確認してください。
ここで大事なのは、2業種取っても施設は1つだということ。工事費や設備投資が二重にかかるわけではありません。増えるのは手数料の分だけです。だからこそ「最初から広い基準で作って両方取る」が現実的な選択になります。
検査に合格すると、そこからおおむね1〜2週間ほどで許可証が交付されました。営業許可には有効期限があり(数年ごと)、期限が切れる前に更新の手続きが必要です。更新の案内は期限前に届きますが、忘れると営業できなくなるので、開業時に有効期限を控えておくと安心です。私は許可証の期限を店の管理台帳に記録しています。
まとめ:広いほうの基準で設計しておく
弁当・惣菜を店で作って店で売るだけなら、飲食店営業許可の1本で足ります。それでも私がそうざい製造業許可も同時に取ったのは、あとから販路を広げたときに施設をやり直したくなかったからです。
ポイントは3つです。
- 販売の形態から逆算して、必要な許可を先に確定させる(自己判断せず保健所へ)
- 製造業の基準に寄せて設計すれば、飲食店営業もほぼ同時に通せる
- 工事前の事前相談で図面を詰める。検査を一発で通す鍵はここ
許可は取って終わりではなく、更新もある「続くもの」です。開業準備で一番あとに回されがちな手続きですが、施設設計に直結する分、本当は一番早く相談に行くべき——3年営んだ今、そう思っています。
よくある質問FAQ
弁当・惣菜を売るのに必要な営業許可は何ですか?
店内の厨房で調理して自分の店で弁当・惣菜を売るだけなら、多くの場合「飲食店営業許可」で足ります。ただし、パック詰めした惣菜を他の小売店に卸したり、委託販売やイベントで継続的に販売したりする場合は「そうざい製造業許可」が必要になることがあります。どの許可が要るかは販売の形態によって変わるため、開業予定地を管轄する保健所に事前相談するのが確実です。
飲食店営業許可とそうざい製造業許可はどう違いますか?
飲食店営業許可はその場で提供・販売する調理を対象にした許可で、そうざい製造業許可はパック詰めなどして流通させる惣菜を「製造」する行為を対象にした許可です。施設基準の大枠は共通していますが、製造業は区画の分け方や手洗い設備などで求められる水準が一段厳しい傾向があります。私は最初から製造業の基準に合わせて設計したため、両方の許可を同じ施設で通すことができました。
営業許可を2業種取ると費用は倍になりますか?
申請手数料は業種ごとにかかるため、2業種を取得すると手数料は2件分必要になります。金額は自治体や業種によって異なり、1業種あたりおおむね1万数千円〜2万円台が目安です。ただし施設は共通で1つなので、工事費や設備投資が二重にかかるわけではありません。事前に管轄の保健所で正確な手数料を確認してください。
保健所の営業許可が下りるまでどれくらいかかりますか?
工事完了後に施設検査を受け、基準を満たしていれば合格となり、その後おおむね1〜2週間ほどで許可証が交付されます。ただし検査で指摘があると再検査になり、その分遅れます。私は事前相談で図面を見てもらい準備しておいたため、指摘は軽微で済みました。開業日から逆算して、検査と交付の期間に余裕を持たせておくことをすすめます。