弁当屋を始めて3年、食材の値上がりが止まりません。品目によって幅はありますが、鶏肉は2倍以上、米も2倍近く、卵や野菜は1.5倍程度になりました。仕入れ先に「何とかならないか」と相談しましたが、安い代替品を勧められただけでした。試食して味の変化を感じ、断りました。
どうしたかというと、メニューを変えました。でも今も値上がりは続いています。解決していません。現在地を正直に書きます。
弁当の半分は米でできている
人口5万人未満の地方都市で弁当・惣菜店を経営して3年目になります。売上の柱は日替わり弁当で、一食の中で米が占める割合は体積で見ても原価で見ても約半分です。米が上がれば、弁当の利益は直撃します。
だから開業前から、米の仕入れをどうするかは考えていました。辿り着いたのが、農家から直接購入する年間契約のトン単位での仕入れです。スーパーで買うより安定していて、生産者の顔が見える安心感もありました。
この選択が、1年目の食材高騰からたまたま店を守ることになりました。
1年目:「令和のコメ不足」に守られた年
開業1年目の夏、ニュースを賑わせたのが「令和のコメ不足」でした。スーパーの棚から米が消え、市場価格が大きく跳ね上がった、あの出来事です。
私の店への影響はほとんどありませんでした。年間契約で農家と価格を決めていたためです。周りの飲食店が仕入れに苦労しているなかで、契約通りの価格で仕入れができました。農家さんへの感謝しかありません。
ただし、「守られた」のは1年目だけでした。
2年目の契約更新時、価格は改定されました。当然です。農家さんも市場価格の影響を受けています。値上がりした状態での再契約になりましたが、これはわかっていたことでした。「身構えていた」という表現が正確です。1年目に影響を受けなかった分、2年目はその分を覚悟して迎えました。
幸いなことに、2年目は1年目より効率化が進んでいました。GASによる注文管理の自動化(この記事)や生産指示のデジタル化(この記事)で、オペレーション全体のロスが減っていた時期と重なりました。米の値上がりは利益を圧迫しましたが、効率化の成果とある程度相殺できた感覚があります。
本当にきつかったのは、鶏肉と野菜の値上がりだった
米の値上がりは「覚悟していた」から受け止めやすかった部分があります。一方で、心理的に一番きつかったのは鶏肉と野菜の高騰でした。
開業時と比べると、品目によって幅がありますが、鶏肉は2倍以上の仕入れ値になりました。卵と野菜は1.5倍程度です。調味料も細かく上がり続けています。弁当屋の仕入れは1品目が上がっても困りますが、複数が同時期に上がると、どこで吸収するかという話が追いつかなくなります。
弁当の主菜は鶏肉メニューが中心でした。から揚げ、照り焼き、塩焼き——食べやすくて原価コントロールがしやすい鶏肉は、弁当屋として頼りにしていた食材です。その仕入れ値が開業からの3年でここまで上がるとは、正直思っていませんでした。
仕入れ先に相談した。提案されたのは「安い調味料」だった
商社の担当者に「何とかならないか」と相談しました。担当者も親切に動いてくれて、コストを抑えられる代替品——具体的には安価な調味料——をいくつか紹介してくれました。
試食しました。
味が変わりました。わずかでしたが、確かに変わりました。その時点で導入は見送ることにしました。
近くのスーパーやコンビニの弁当と同じ味になるくらいなら、値段で戦うしかなくなります。私の店が値段で大手に勝てるわけがない。味と品質で選んでもらえている部分を削ることだけはしたくなかったです。
担当者も「そうですよね」と理解してくれました。ただ、だからといって仕入れ値を下げる方法はありません。お互いどうしようもない、という会話で終わりました。
鶏肉に頼りすぎていたメニューを、豚肉と野菜で組み直した
仕入れ先に頼れないとわかったので、自分側でできることを考えました。取った選択は主に3つです。
① 豚肉メニューの開発
鶏肉メニューの一部を豚肉で置き換えることにしました。豚肉は鶏肉より仕入れ値が安定していたためです。
ただし、これには技術的な壁がありました。豚肉は時間を置くと硬くなりやすい特性があり、鶏肉に比べてこの傾向が強いです。弁当は購入してから数時間後に食べることがほとんどなので、この特性がそのまま課題になります。
時間が経っても柔らかく、食べやすい食感を維持するための試行錯誤が続きました。火加減、漬け込み時間、調理の順番——試しては修正し、試しては修正する期間が続きました。今でも完全に満足しているわけではありませんが、お客さんから出せるレベルには達したと判断しています。
② 野菜メインの健康志向弁当の開発
肉類のコストが上がる一方で、野菜をメインにした弁当は比較的原価コントロールがしやすいこともあり、健康志向をコンセプトにしたラインナップを追加しました。野菜をたっぷり使うことで、見た目のボリューム感も出やすいという利点もありました。
③ 副菜(惣菜)のラインナップ拡充
弁当単品ではなく、副菜を単品で選んで組み合わせられるようにラインナップを増やしました。単価の比較的低い食材を副菜に回すことで、原価バランスを調整しています。
選択肢が増えた。でも「選びすぎ」という新しい課題も生まれた
メニューの多様化に対するお客さんの反応は、おおむねポジティブでした。「選択肢が増えた」「前より選ぶ楽しさがある」という声をいただくことが増えました。
ただ、これは同時に新しい課題を生んでいます。
選ぶのが大変になってしまいました。数が増えるということは、お客さんが迷う時間も増えるということです。「何にしようか決められない」という声も出てきています。弁当屋で長く悩んでほしいとは思っていません。サッと選んでサッと買えることがお客さんにとっての価値でもあるので、メニュー数の整理が次の課題になっています。
現在も値上がりは続いている——容器と副資材まで
食材の値上がりは「一段落した」という感覚がまだありません。
鶏肉・卵・野菜・米に加えて、最近は弁当容器やレジ袋、ラップ、保存袋といった副資材の値上がりも続いています。食材ではないので見落としがちですが、塵も積もれば利益を圧迫します。副資材の見直しも含めて、近いうちに追加の価格改定が必要な状況です。
値上げについての考え方はこの記事でも詳しく書いています。値上げは毎回エネルギーを使います。だからこそ、「いつ・どのくらい」を計画的に判断したいと思っています。
食材高騰への対応は現在進行中です。解決策を見つけたわけでも、慣れたわけでもありません。新しい動きがあればこの記事に追記していく予定です。
まとめ:「何とかする」には限界がある。でも動き続けるしかない
仕入れ値が2倍になっても、味を変えないことを選びました。その代わり、メニューを変えました。鶏肉から豚肉へ、肉から野菜へ、シフトしながら原価バランスを調整してきました。
仕入れ先への交渉は「どうしようもない」という結論になりました。安く仕入れるための代替品は味が変わりました。削れる固定費は削りました。それでも値上がりは続いています。
完全な解決策はありません。でも、手を止める理由にもなりません。対応できる部分を少しずつ積み上げて、動き続けるしかないという現在地です。
よくある質問FAQ
食材が値上がりしたとき、仕入れ先への値下げ交渉はできますか?
私の経験では難しかったです。「何とかならないか」と相談したところ、安価な代替品(調味料など)を提案されました。試食した結果、味の変化を感じたため導入は見送りました。仕入れ先も市場価格に連動しているため、単純な値下げ交渉よりも「どう工夫して原価を抑えるか」のほうが現実的な議論になりやすいと思います。
鶏肉から豚肉へのメニュー転換は難しかったですか?
技術的に苦労しました。豚肉は時間を置くと硬くなりやすい特性があり、鶏肉に比べてこの傾向が強いです。時間が経っても柔らかく食べやすい食感を保つための試行錯誤が必要でした。お客さんからは「選択肢が増えた」と喜んでいただけましたが、逆に選ぶのが大変という声もあり、新たな課題になっています。
農家から直接仕入れるメリットは何ですか?
価格の安定感と品質の把握しやすさです。私の店では米を農家から直接、年間契約のトン単位で仕入れています。市場価格の急騰時(令和のコメ不足など)に一定期間影響を受けずに済んだ経験がありました。ただし契約年度が変わると価格は改定されるため、永続的に安く買えるわけではありません。農家との信頼関係を丁寧に作ることが前提です。
食材の値上がり分は売値に転嫁しましたか?
一部は転嫁しました。特に鶏肉と野菜の値上がりが続いた時点で価格改定を行いました。ただし全額を転嫁するのは難しく、メニュー転換(豚肉の活用・野菜メインの健康弁当の開発など)や副菜ラインナップの拡充で対応した部分もあります。現在も容器・袋などの副資材が値上がりを続けており、追加の価格改定を検討中です。
食材の値上がりはいつ落ち着きますか?
正直、見通しが立ちません。鶏肉・卵・野菜・米・容器に至るまで、複数品目の値上がりが重なって続いています。「落ち着いた」と思ったら別の品目が上がる、という繰り返しです。固定費の削減や効率化は続けていますが、仕入れ値の高騰を完全に吸収する手段はなく、対応策を探し続けている状況です。この記事は追記・更新していく予定です。