経営のリアル

弁当屋が値上げしたら客も売上も半年落ちた——それでも「もっと早く上げるべきだった」と思う理由

この記事の結論

値上げをしたら、客数も売上も半年以上落ちました。正直に書きます。

それでも値上げは正解でした。むしろもっと早く、もっと大きく上げるべきでした。3年間「怖くて上げられなかった」私が、なぜそう思うのかを書きます。

3年間
値上げを先延ばしにした期間
10〜100
値上げ幅(商品によって異なる)
半年以上
客数・売上が落ちた期間

前提:3年間、値上げを「怖くて」できなかった

私は人口5万人未満の地方都市で弁当・惣菜店を2店舗営んでいます(詳しくはこの人について)。開業から3年近く、価格はほぼ据え置きでした。

理由はシンプルです。客が離れるのが怖かったのです。地方の小さな商売で、客が一人減れば売上への影響は大きい。「もう少し様子を見よう」を繰り返しているうちに、3年が経っていました。

その間も仕入れ価格は少しずつ上がっていました。食材、包装資材、光熱費。小さな上昇が積み重なっていきました。

踏み切ったのは5つの要因が重なったから

値上げを決断したのは開業3年目以降、5つの要因が一度に重なったタイミングでした。

1. 鶏肉の仕入れ価格が大きく上がった

一番の打撃は鶏肉でした。弁当の主菜で使う頻度が高い食材なので、仕入れ価格の上昇がそのまま原価率に直結しました。「これはもう吸収できない」と感じた最初の瞬間でした。

2. 食材全般・包装資材・光熱費が上がった

鶏肉だけでなく、米をはじめとした食材全般、包材、電気・ガス代が軒並み上がっていました。個々の上昇は小さくても、全方位から原価を押し上げていました。

3. 自分の時給を計算したら採算が取れていなかった

このタイミングで初めて自分の労働時間あたりの収益を計算しました。その話は別の記事に書きましたが、結果は想像以上にひどいものでした。価格を上げなければ、働いても働いても手元に残らない構造になっていることが数字で見えました。

4. 近隣の飲食店も値上げし始めた

エリア内の他の飲食店が少しずつ価格改定を始めていました。「うちだけ安い」状態になりつつある、という感覚がありました。同時に「他の店が上げているなら、客もある程度は受け入れ始めているはず」という背中押しにもなりました。

5. 「このままでは続けられない」という確信

4つの要因が積み重なったとき、初めて「怖い・怖くない」ではなく「上げなければ続けられない」という局面だと腹をくくれました。値上げは選択肢ではなく、必要な判断でした。

告知は店内POPとSNSの2本立て

価格改定の告知は、店内POPと値段表の差し替え、それにSNSでの事前告知を組み合わせました。

告知文のトーンは「事実を淡々と伝える」に徹しました。「誠に申し訳ございませんが」という謝罪調にはしませんでした。仕入れ価格が上がったこと、品質を落とさずに続けるための判断であることを、一言添える程度にしました。

LINE公式には配信しませんでした。理由はLINE公式をプッシュ配信には使っていないからです。受け取り専用で運用しているため、この告知もSNSでの発信にとどめました。

正直な結果:客も売上も半年以上落ちた

値上げ後の現実は厳しかったです。

客数が落ち、売上が落ち、利益も落ちました。半年以上、その状態が続きました。「値上げで客が離れる」という恐れは、現実になりました。

精神的にはきつい期間でした。値上げを決断したことへの後悔も、正直ありました。「下げれば戻るのではないか」と考えた日もあります。

それでも価格を戻しませんでした。戻したところで、原価率の問題は解決しないからです。安い価格で売っても、仕入れコストが上がっている以上、利益はさらに薄くなるだけです。

それでも「正解だった」と思う理由

半年以上かけて、状況は少しずつ落ち着きました。客数は以前より少ないままの部分もありますが、客層が変わったという感覚があります。

価格だけで選んでいた客は離れました。残った客は、価格より品質や利便性を重視してくれている客です。同じ量を売っても、以前より丁寧に接客できる余裕が生まれました。

そして何より、原価率の圧迫から解放されました。値上げ前は、売れば売るほど赤字に近づく構造になりかけていました。価格を正常化したことで、売上が経営に直結するようになりました。

反省:幅が足りなかった、もっと早く上げるべきだった

「よかった」とは思っています。ただ、2つの後悔があります。

ひとつは値上げ幅が足りなかったことです。商品によって10〜100円の改定をしましたが、その後も原材料費の上昇は止まらず、結果として「もう一段上げるべきだった」という状態になっています。

もうひとつは3年間先延ばしにしたことです。怖くて上げられなかった3年間、私は低い価格のまま利益を削り続けていました。値上げには「客が慣れるためのコスト」が伴います。そのコストを払うなら、早いほうが傷は浅い。

今なら、原材料費が上がったタイミングで迷わず上げます。「客が離れるかもしれない」という恐れよりも、「このまま続けても持続できない」という現実の方が重いからです。

まとめ:値上げは「怖いからしない」ではなく「しなければ続けられない」判断

値上げして客も売上も落ちました。半年以上、その状態が続きました。それでも正解だったと思っています。

値上げを先延ばしにすることは、問題を解決しているのではなく、先送りしているだけです。原材料費が上がっているのに価格を据え置けば、経営の体力は静かに削れていきます。

怖くて上げられない気持ちはよくわかります。私も3年間そうでした。でも値上げの恐怖は、しない恐怖より小さかったです。

よくある質問FAQ

飲食店が値上げすると客は離れますか?

私の経験では離れました。値上げ後、客数・売上ともに半年以上落ちた状態が続きました。ただし、それでも値上げを「正解だった」と思っています。値上げ前の価格では原材料費・光熱費・包装資材の上昇を吸収できておらず、続けていれば経営が立ち行かなくなっていたからです。

飲食店が値上げを告知するとき、どうやって伝えればいいですか?

私は店内POPと値段表の差し替え、SNSでの告知を組み合わせました。「〇月〇日より価格を改定します」という事実を淡々と伝えました。言い訳がましくなりすぎず、理由も一言添える程度が伝わりやすかったと感じています。

値上げのタイミングはいつが正解ですか?

私は開業3年目まで先延ばしにしましたが、今振り返るともっと早くすべきでした。原材料費が上がったタイミング、もしくは自分の労働コストを計算して採算が合わないと気づいた時点が判断の起点です。「怖いから後回し」にした分、低い価格のまま利益を削り続けました。

値上げ幅はどのくらいが適切ですか?

私は商品によって10〜100円の幅で改定しました。今振り返ると、この幅では足りなかったと感じています。値上げには「客を慣らすコスト」が伴うため、小刻みに複数回上げるより、一度に適切な幅まで上げた方が、客への影響も一回で済みます。

値上げ後に売上が戻るまでどのくらいかかりますか?

私の場合は半年以上かかりました。しかも完全には戻っておらず、客層が入れ替わった面もあります。「値下げを求める客」が離れ、「価格より品質・利便性を重視する客」が残るという変化でした。短期的には痛いですが、長期的には健全な客層への移行だったと捉えています。