経営のリアル

時給286円。弁当屋が事業3年目で初めて計算した自分の労働単価と、それでも続ける理由

この記事の結論

事業3年目にして初めて自分の時給を計算しました。年間2,624時間働いて、手取りは約75万円。実質時給は286円、全国平均最低賃金(1,055円)の27%でした。

それでも生活はできています。この矛盾を解説しながら、なぜ続けるのかを正直に書きます。

2,624時間
年間実労働時間
286
実質時給
最賃の27%
全国平均最低賃金比

3年間、自分の時給を一度も計算していなかった

人口5万人未満の地方都市で弁当・惣菜店を経営して3年目になります。青色申告も2年やりました。経費管理も仕組みにしました(経費管理の記事はこちら)。

それなのに、自分の時給を計算したことが一度もありませんでした。低いだろうという認識はありました。ただ、そこまで重要視していなかったんです。生活はできていたので、あえて数字にする必要性を感じていませんでした。

今回初めて計算してみて、「知らないままでいたかった」と少し思いました。同時に「やっぱり知っておくべきだった」とも思いました。

まず労働時間を正直に棚卸しした

時給の計算式はシンプルです。

実質時給 = 年間手取り額 ÷ 年間実労働時間

問題は「実労働時間」をどう定義するかでした。店にいる時間だけで計算すると実態と乖離します。発注、買い出し、事務作業——すべて含めないと意味がありません。

私の場合、店は完全週休2日。1週間のパターンはこうなっています。

  • 仕込みのみの日:週1日、約5時間(発注・買い出し含む)
  • 営業日:週4日、約11時間(仕込みから片付けまで・LINE対応含む)

これに事務・帳簿作業が加わります。週末に約1時間、月末にまとめて約2時間。

計算するとこうなります。

260時間
仕込み日(週1×5h×52週)
2,288時間
営業日(週4×11h×52週)
76時間
事務作業(週末+月末)

合計2,624時間/年。週換算で約50時間になります。

「そんなに働いている感覚はなかった」と言いたいところですが、数字を出したらそうなりました。仕込みが終わったら即帰宅、営業が終わったら即帰宅——その積み重ねがこうなります。

次に手取りを出した。ここで本当に怖くなった

確定申告書の事業所得(青色申告特別控除後)は約110万円でした。青色申告の数字の見方についてはこちらの記事も参考にしていただければと思います。

ここから実際に手元に残る金額を出すには、税金と社会保険料を引く必要があります。所得控除を最大限使ったあとの課税所得は数十万円程度なので、所得税・住民税の合計は大きくありません。重いのは社会保険料です。

項目概算
事業所得(所得金額)約110万円
所得税−約2万円
住民税−約4万円
国民年金−約20万円
国民健康保険−約9万円
手取り約75万円

そして計算しました。

75万円 ÷ 2,624時間 = 286円/時

全国平均最低賃金は2024年度で1,055円です。その27%——コンビニのアルバイトの4分の1以下になります。

低いだろうとは思っていましたが、実際に数字を見ると、あらためて怖くなりました。

サラリーマン時代との比較で、さらに複雑な気持ちになった

私は開業前、自動車部品メーカーの生産技術職でした。当時の手取りを時給換算すると、残業込みでも最低賃金は余裕で超えていました。社会保険は会社が半分負担してくれて、有給もボーナスも退職金制度もありました。

今は国民年金・国民健康保険を全額自分で払っています。有給もボーナスもありません。体調を崩せばその日の売上はゼロです。

サラリーマンはほんとうにいろいろと恵まれているな、とこの計算をして改めて思いました。社会保険の「会社負担」は、在職中は見えにくいですが、個人事業主になると如実に重さが見えてきます。

それでも生活できている理由——個人事業主の経費構造

手取り75万円で生活できるのか、と思われるかもしれません。できています。その理由は個人事業主ならではの経費構造にあります。

飲食業では、商品にならない端材や規格外の食材が日々出ます。調理の副産物として食材が手元に残るため、食費として現金を使う機会が少なくなります。これは外食産業に携わる者の現実です。

また、外食は業界研究・商品開発の一環として必要な投資でもあります。競合や流行を知るためには実際に食べるしかありません。共同経営者と仕事の話をしながら食事することは、事実上の打ち合わせです。

さらに、私用の出費がそもそも多くありません。仕事に精を出している時間が長く、散財する時間的余裕がないというのもあります。車・スマートフォン・光熱費の一部は事業用途と重なっているため、経費処理できる部分があります。

時給286円という数字と、実際の生活感覚にはこのような乖離があります。数字だけ見ると成立しないように見えますが、個人事業主の手取りは「その数字だけで生活費のすべてを賄っているわけではない」という構造になっていることが多いです。

経費管理の全体像については別の記事で詳しく書いています。

では、本当に大丈夫なのか

「大丈夫か」と聞かれれば、大丈夫だと答えます。

ただし、「数字の上で完璧に成立している」という意味の大丈夫ではありません。正確に言うと、やりたいことをやっています。始めたばかりで何もかもうまくいっているわけではないことも知っています。だからこそ、伸びしろがあるとも思っています。

贅沢ができないのは正直、嫌だとも思います。ただ、食事が好きなので業界研究・商品開発として外食を経費化できているのは、生活の満足度においてかなり大きいです。心配されるほどストレスは溜まっていません。

「大丈夫」の基準は人によって違うのだと思います。数字だけ見ると心配される状況でも、当事者にとっては「やっていること」と「生活できること」が両立していれば、意外と大丈夫なものです。

それでも続ける理由——今すぐ時給を上げようとしていない

なぜ続けるのか、という話をします。

生活のため、というのは本音です。ただそれだけなら、もっと時給の高い仕事はいくらでもあります。本当の理由は別のところにあります。

リタイアすることを「負け」と定義しています。だからやめるという選択肢が頭にありません。

やりかけたことに対して負けたくない、という感覚が3年間の原動力でした。合理的かどうかはわかりません。ただ、この感覚が続く限りは動けます。

そして、今すぐ時給を上げようとはしていません。優先順位の問題です。

今の段階では、土台を作ることが先決だと考えています。事業がセミオートで回る状態——自分がいなくても基本的なオペレーションが動く状態——になるまでは、時給を上げることより仕組みへの投資を優先する方が長期的に合理的です。現状、暮らせています。ストレスもありません。問題が燃え上がっていないうちに急いで動く必要はないと判断しています。

個人事業主には定年がありません。サラリーマンは制度上、65歳前後に仕事が終わります。私には終わりを決める仕組みがない。これをリスクと見ることもできますが、私は「老後まで積み上げ続けられる」という意味でとらえています。

時給を逆算すると、目標が見えてくる

この記事を書くにあたって、事業所得の目標から手取りと時給を逆算してみました。労働時間は現在と同じ2,624時間で計算しています。

時期事業所得手取り概算時給換算
現在約110万円約75万円286円(最賃の27%)
10年後目標約500万円約360万円約1,370円(最賃の約1.3倍)
15年後目標約1,000万円約660万円約2,520円(最賃の約2.4倍)

現在の時給は最低賃金の27%ですが、事業所得が現在の3〜4倍程度になったあたりで、初めて最低賃金を超える計算になります。10年後目標ではそれを超えて最低賃金の1.3倍になります。

ただし、この計算は「今と同じ時間数で働いた場合」の数字です。セミオート化が進めば労働時間は減り、同じ手取りでも時給は上がります。目指しているのは時給を上げることそのものではなく、「自分が動かなくても収益が出る仕組み」の構築です。新しい事業も計画中で、そちらも含めた積み上げを考えています。

まとめ:時給286円は現在地であって、設計図の起点です

自分の時給を計算したことで、現在地が数字になりました。年間2,624時間働いて手取り約75万円、時給286円。全国平均最低賃金の27%です。

怖い数字ですが、これは起点です。10年後・15年後の目標から逆算すると、最低賃金を超えるのがいつ頃になるかも見えてきました。

今すぐこの数字を改善しようとはしていません。土台を作ること、セミオート化、そして新しい事業——それらが積み上がったあとに、自然と時給は変わっていくという考え方をしています。

知ってよかったのは、「自分がどこにいるか」が明確になったことです。定期的にこの計算をしながら、少しずつ動かしていきます。

よくある質問FAQ

個人事業主の実質時給はどう計算するのですか?

「年間手取り額 ÷ 年間実労働時間」で出せます。手取りは事業所得(青色申告特別控除後)から所得税・住民税・国民年金・国民健康保険を引いた金額です。労働時間は仕込み・営業・発注・事務作業をすべて含めて計算します。月給や年収だけ見ていると実際にどれだけ働いているかが見えないため、時給換算で把握することをおすすめします。

飲食店の個人事業主とサラリーマンの手取りはどう違うのですか?

最大の違いは社会保険の負担です。サラリーマンは健康保険・厚生年金の半分を会社が負担しますが、個人事業主は国民健康保険・国民年金をすべて自分で払います。またボーナスや有給・傷病手当もありません。一方で、事業に関わる支出を経費にできる点は個人事業主の強みです。単純な金額比較より、生活コスト全体で考える必要があります。

時給が最低賃金を下回っても続けられる理由は何ですか?

私の場合、「負けたくない」という気持ちが大きいです。リタイアすることを「負け」と定義しているため、数字が厳しくてもやめる選択肢が頭にありません。また飲食業ならではの経費構造により、手取りの数字より実際の生活コストは低く抑えられています。時給の低さは課題として認識しつつ、仕組み化で1時間あたりの生産性を上げることで改善を目指しています。

個人事業主として社会保険料の負担は重いと感じますか?

重いです。事業所得110万円に対して、国民年金と国民健康保険の合計だけで約30万円近くになります。手取りから見ると28%以上が社会保険料で消えている計算です。サラリーマン時代は会社が半分負担してくれていたので、独立してから初めてその重さを実感しました。