経営のリアル

大型連休の売上は約2倍。増えるのは弁当ではなく別注弁当——弁当屋が5日前に受注を締め、朝2時に出勤する繁忙期の回し方

この記事の結論

お盆や年末年始などの大型連休でも、弁当そのものの売上はほとんど変わりません。増えるのはオードブルや予算に合わせた別注弁当で、これがプラスアルファとして乗ることで売上は倍程度まで跳ね上がります

そして、その注文をどこまで受けられるかを決めているのは、やる気でも売上目標でもありません。仕入先の営業日冷蔵庫・冷凍庫の空きという、2つのきわめて物理的な条件です。受注を5日前で締め、朝2時に出勤し、それでも断っている——その実際を正直に書きます。

約2
大型連休の売上(別注分が上乗せ)
5日前
別注の受注締切(目安)
朝2
集中日の出勤(いつもより何時間も早く)

前提:繁忙期は「たくさん売れる日」ではなく「別の商売が乗る日」

人口5万人未満の地方都市で弁当・惣菜店を営んでいます(詳しくはこの人について)。開業3年目で、味は専属の調理担当に任せ、私は主に仕組みと経営を見ています。

繁忙期の話をすると、たいてい「連休はお弁当が飛ぶように売れるんでしょう」と言われます。実際は違いました。普段の弁当の売上は、連休でもほぼ横ばいです。人の流れが変わるだけで、日常的にお弁当を買う場面そのものは、そんなに増えません。

代わりに立ち上がってくるのが、法事や集まりのための別注です。つまり繁忙期というのは、通常の商売が膨らむ日ではなく、通常の商売の上に、まったく別の商売がもう一枚乗ってくる日でした。この理解に変わってから、準備の仕方も断り方も整理がつくようになりました。

増えるのは別注弁当——「2,000円で作って」という頼まれ方

連休に増える注文は、大きく2種類です。オードブルと、金額に合わせた特注の弁当です。

特注のほうは、注文のされ方が普段とまるで違います。メニュー名で頼まれるのではなく、「2,000円で作って」という感じで、金額のほうから話が始まります。私の店では1,500円からお受けしています。

この受け方は、こちらに献立の裁量がある分だけ融通が利きます。一方で、通常のメニュー表の外に出るということでもあります。普段は固定3品+日替わり5品前後で回している店に、その日だけ既存のローテーションに無い品が差し込まれる。だからこそ、受ける量に上限を引かないと現場が壊れます。

受注の締切が5日前な理由——決めているのは仕入先の営業日

別注の受注は、おおむね5日前で締め切っています。連休の長さや並びによって前後しますが、目安はこのあたりです。

この5日という数字は、こちらの作業の都合から出てきたものではありません。肉屋や野菜屋といった仕入先の営業日から逆算した結果です。連休は仕入先も休みます。こちらが「まだ作れる」と思っていても、材料が入らなければ何も始まりません。締切を決めているのは自分ではなく、仕入先のカレンダーのほうだ、というのが実際のところです。

だから繁忙期の準備でいちばん最初にやるのは、生産計画を立てることではなく、取引先の営業日を確認することです。ここが確定しないと、締切もいつから仕込むかも決められません。普段の発注を仕組みに寄せていく話は発注量を感覚で決めていた頃の記事に書きましたが、連休の発注だけは今も、カレンダーを見ながら人が判断しています。

受けられる量の上限は、冷蔵庫と冷凍庫が決める

どこまで注文を受けるか。その判断基準は、冷蔵庫と冷凍庫にどれだけ余裕があるかです。庫内の空きを見ながら、共同経営者と相談して決めています。

売上目標から逆算するのでも、頑張れる気がするから受けるのでもありません。入る場所があるかどうかという、身も蓋もない物理的な条件が先に来ます。前もって材料を確保しておかないと連休中に補充できないので、受注量はそのまま「連休前にどれだけ抱え込めるか」とイコールになります。

結果として、庫内の動き方はこうなります。連休の始まりでは満タン、終わる頃には空になっている。ただし、意図して空にしているわけではありません。使い切って空になっちゃう、というのが正確な言い方です。連休中の別注の予約枠と、通常営業の枠で、抱えた分をすべて使い切る。だから連休明けの庫内はきれいに空いています。

この「入る分しか受けない」という縛りは窮屈にも見えますが、結果的に廃棄を出さないことにもつながっています。余らせないのは徳を積んでいるからではなく、そもそも余るほど仕入れられないからです。

集中する日は朝2時出勤——いつもより何時間も早く

注文が集中する日は、朝2時に出勤することもありますいつもより何時間も早い出勤です。

やっていることは、特別な工夫ではありません。単純に前倒しして、時間そのものを増やしているだけです。仕込みの手順を変えたり、人を大量に増やしたりして解決しているわけではない。ここは正直に書いておきます。

そして、この前倒しこそが、受注量に上限を引いているもう一つの理由です。冷蔵庫はお金を出せば増やせますが、朝2時に起きられる回数は増やせません。連休のたびにこれをやると分かっているから、受ける量は身体が保つ範囲に収めるしかない、という結論になります。

断っています——「本当はめちゃくちゃ受けたい」のに

注文を断ったことは、もちろんあります。しかも一度や二度ではありません。

誤解のないように書いておくと、本当はめちゃくちゃ受けたいです。せっかく声をかけてもらったのだから全部受けたい。断る理由は「割に合わないから」でも「面倒だから」でもなく、冷蔵庫と人のキャパシティ——それだけです。

冷蔵庫の買い足しも実際に検討しました。ただ、庫内を広げたところで、次に人のキャパのほうが問題になるのが見えています。入れる場所ができても、それを作る人と時間が増えるわけではない。だから設備投資はひとまず様子見にしています。ここはまだ答えが出ていません。人の側を先に何とかできたときに、あらためて考えることになると思います。

断るのは苦しい判断ですが、受けて落とすよりはるかにましだ、と考えるようになりました。その理由が次の話です。

一番の失敗:受注していたのに、作っていなかった

開業1年目の話です。当時、予約の管理はでした。

インスタのDMで来た注文も、来店して直接いただいた注文も、いったん紙に書き出して、それをカレンダーに貼り付けて管理していました。手書きで一元化しているつもりだったのです。

ある日、そのカレンダーに貼り付けた紙が、剥がれてなくなっていました。剥がれたのか、どこかにいってしまったのか、今でも分かりません。分かっているのは、受注していたのに、作っていなかったという結果だけです。

慌てて作りました。多少の余裕を見ていたおかげで、材料は何とかなりました。作ったものはお客様のお家までお持ちしました。それでも、2時間ほどお待たせしてしまいました

お客様は寛大な方で、「忙しいから仕方ないよね」と言ってくださいました。その場は、それで終わったように見えました。

でも、次からの注文はなくなりました。

常連さんでした。だから余計に、申し訳なかったと今も思っています。この一件で学んだのは、許してもらえたことと、信頼が戻ることは別だということです。怒られなかったから大丈夫、ではありませんでした。静かに来なくなる——それが、飲食店にとって一番こたえる形の失敗でした。

今:同じポカが起きない形にしてから、繁忙期のトラブルはゼロ

あの日以降、予約を紙で持つのをやめました。

受付の経路がいくつあっても、最終的には1つのデータベースに集約する。そこから生産指示が出て、当日に必要な情報がこちらに届く。今の形は予約管理の仕組み生産指示のデジタル化にまとめたとおりです。さらに、翌日の予約一覧が毎日LINEに届く仕組みを足して、登録漏れそのものを見張るようにしました。

結果として、今の仕組みではあのようなポカが出ないよう管理できていて、今のところトラブルはありません。繁忙期は注文の絶対量が増える分、紙の時代なら間違いなく破綻していたはずです。逆に言えば、繁忙期は仕組みの弱いところを正確に見つけてくれる期間でもあります。普段は人の記憶でごまかせていたものが、連休には必ず表に出てきます。

まとめ:繁忙期は「頑張る量」ではなく「入る量」で決める

3年やってきて、大型連休の向き合い方はこう整理できました。

  • 増えるのは弁当ではなく別注……通常の売上は横ばい。オードブルと特注が乗って売上は約2倍になる
  • 締切を決めるのは自分ではなく仕入先……肉屋・野菜屋の営業日から逆算して、目安5日前で締める
  • 上限を決めるのは冷蔵庫と冷凍庫……入る場所がなければ受けられない。連休前は満タン、明けには使い切って空になる
  • 時間は前倒しでしか作れない……集中日は朝2時出勤、いつもより何時間も早く。これが受注上限のもう一つの理由
  • 断るのは受けたくないからではない……冷蔵庫は買い足せても、人のキャパは買い足せない
  • 受けたものを落とすのが最悪……許してもらえても、注文は戻ってこない

繁忙期の準備というと、気合いや人手の話になりがちです。でも私の店で実際に効いたのは、受ける量を物理的な条件で先に決めてしまうことと、受けたものを絶対に落とさない仕組みを持つことの2つだけでした。連休は稼ぎ時であると同時に、いちばん信頼を失いやすい時期でもあります。だから私は、受けられる分だけを受けることにしています。

よくある質問FAQ

大型連休は弁当屋の売上はどれくらい増えますか?

私の店の場合、弁当そのものの売上はほとんど変わりません。増えるのはオードブルや予算に合わせた別注弁当で、それがプラスアルファとして乗ることで、売上は倍程度まで跳ね上がります。連休だから通常商品がたくさん売れる、という増え方ではないところが実感とのズレが出やすい部分です。

別注弁当やオードブルはいつまでに注文すればいいですか?

私の店は目安として5日前までに締め切っています。この日数は自分の都合で決めたものではなく、肉屋や野菜屋といった仕入先の営業日から逆算した結果です。連休は仕入先も休むため、そこに間に合わないと材料が入りません。締切の日数は連休の長さや並びによって前後します。

繁忙期の受注の上限はどうやって決めていますか?

冷蔵庫と冷凍庫にどれだけ余裕があるかを見て、共同経営者と相談しながら決めています。売上や人手より先に、庫内の物理的な空きが上限を決めます。連休の入り口では庫内は満タンで、連休が終わる頃には予約枠と通常枠で使い切って空になっている、という動き方です。

繁忙期は何時から仕込みを始めますか?

集中する日は朝2時に出勤することもあります。いつもより何時間も早い出勤です。品数や手順を変えるというより、単純に前倒しして時間を確保するかたちで対応しています。この身体的なきつさが、受注量に上限を設けているもう一つの理由でもあります。

繁忙期の注文の作り忘れはどうやって防いでいますか?

予約の受付経路がいくつあっても、最終的に1つのデータベースに集約し、そこから生産指示と当日の通知が出るようにしています。開業1年目に紙の予約票をカレンダーに貼って管理していた頃、その紙が剥がれてなくなり作り忘れたことがありました。仕組みに移してからは同じ種類のミスは起きていません。