飲食の実務経験はアルバイト程度。開業前は「経理とサポートに回るだけ」のつもりだった。3年後の今、それが大きな誤算だったと分かっている。
後悔した準備不足は大きく5つ——税務・労務の知識、資金の余裕、現場参入の覚悟、採用の基準、共同経営の役割決め。正直に書く。
飲食実務経験
準備不足
言えること
前提:ずぶの素人が、料理担当のパートナーと開業した
人口5万人未満の地方都市で弁当・惣菜店を2店舗営んでいます(詳しくはこの人について)。高校・大学と商業系の学校に通っていたので、経営・経理の基礎知識はありました。ただ、それはあくまで机上の知識です。飲食の実務経験はアルバイト程度。自分の弁当屋を開くとは、開業するまで考えたこともありませんでした。
開業を決めたきっかけは、料理の腕に長けた共同経営者の存在です。その料理を食べて、「店で食べるものよりうまい」と感じた。「自分は経理と仕組みをサポートするだけでいい」という見通しで、一緒にやることにしました。その見通しが、最初の誤算の始まりでした。
後悔①:税務・労務・法律を「あとで調べる」にした
経理の帳簿をつけること自体はスムーズでした。学校で習ったことが意外とそのまま使えました。問題は税務・労務・法律です。この3つは、学校で習った範囲を超えていました。
消費税の仕組み、労働保険・社会保険の手続き、雇用契約書の書き方——「難しそうだから開業してから調べよう」と後回しにした結果、人を雇うたびにハローワーク・市役所・知人に聞きながら都度対応することになりました。今でも調べながら進めている部分が多くあります。
やっておけばよかったこと:開業前に「人を1人雇う流れ」を一通り紙に書き出しておく。ハローワーク・税務署・年金事務所の窓口に、開業前に一度顔を出してみる。「何かあったら聞ける場所」を先に作っておくだけで、開業後の余裕が変わります。
後悔②:初期費用の読みが甘かった
開業前に資金計画を立てましたが、実際の初期費用は想定を上回りました。内装の追加工事、想定外の設備費用、許認可に付随する費用——細かい出費が積み重なり、自己資金は予算の上限まで食い尽くしました。
多少の余裕を持たせていたはずが、ほとんど残らなかった。もう少し借り入れに余裕を持たせておくべきだったと思っています。「足りなくなってから借りる」のと「最初から余裕分を借りておく」では、精神的な負荷がまったく違います。
やっておけばよかったこと:資金計画は、見積もり総額に余裕を乗せるだけでなく、「想定外用の予備枠」として借り入れの余地を残しておく。創業融資は開業前にしか使えない制度が多いので、後回しにしないことが重要です(創業資金の話も参考に)。
後悔③:「現場には入らなくていい」と思っていた
開業前の私の想定はこうでした。料理は共同経営者が担当する。自分は資金調達・経理・仕組みづくりに集中する。現場には基本的に入らなくていい——。
現実は違いました。店が回らないのです。開業後すぐ、ガッツリ現場に入らなければ店が動かない状況に直面しました。包丁を持つことにも慣れていない状態からのスタートです。「覚える」というより「慣れる」ことに、想定の何倍もの時間がかかりました。
当時はサラリーマンも続けていたので、本業と現場の二足のわらじになりました。「このままでは資金を無駄にする」という危機感が出てきて、本業を辞めて本腰を入れる決断をしました。
やっておけばよかったこと:「自分が現場に入ることになった場合」のシナリオを開業前に想定しておく。最低でも包丁の扱いと基本的な仕込みの流れは、開業前に体で覚えておくべきでした。
逆に言えば、素人だからこそよかったこともあります。「わからない人のわからないこと」が自分にはわかる状態だったので、自分が理解できるまで落とし込んだマニュアルを最初から作ることができました。
後悔④:採用の基準を決めずに人を探した
最初のうちは「とにかく人が欲しい」という気持ちが先行していました。結果として、店の方針や働き方への共感を確認しないまま採用したケースが出てしまいました。
共感のない採用は、じわじわ問題が出てきます。指示を待つだけで自分で動かない。ダラダラ仕事をされる感触がある。定着率も下がる。スキルや経験より、「この店をよくしようという気持ちを持っているか」が採用の根幹だと、苦労してから分かりました。
とはいえ、共感できる人になかなか巡り合えない現実もあります。ある程度の妥協は必要で、正解がない難しさが今もあります。それでも、「誰でもいいから雇う」という焦りに負けないことは決めています。
やっておけばよかったこと:採用面接で必ず確認する質問を、開業前にリストアップしておく。「なぜ飲食で働きたいか」だけでなく、「自分で気づいたことを動いてもらえる人か」を見極める問いを用意しておく。
後悔⑤:共同経営の役割と責任を曖昧にした
共同経営がうまくいくかどうかは、最初の取り決めにかなり左右されると感じています。
料理と経営を分担してスタートしましたが、境界線が曖昧な部分が生まれました。コストをどちらが負担するか、最終的な決定権は誰にあるか——日々の小さな判断が積み重なると、すり合わせのコストが増えていきます。共同経営そのものが問題なのではなく、「決めていなかったこと」が後から摩擦を生んだというのが正直なところです。
やっておけばよかったこと:「誰がどの領域を担当し、最終決定権を持つか」を、開業前に決めておく。お互いの得意を活かすために組む共同経営は大きな強みになりますが、それには役割の輪郭を最初から明確にしておくことが前提です。
よくある質問FAQ
飲食未経験でも弁当屋は開業できますか?
できます。ただし、開業後に現場に入る覚悟は必要です。私はアルバイト程度の飲食経験しかなく、「経理とサポートに回るだけ」のつもりで開業しましたが、実際には現場に引き込まれました。未経験だからこそ「わからない人のわからないこと」が見えるという強みもあります。
開業資金はどのくらい余裕を持たせるべきですか?
想定額に余裕を加えた上で、さらに借り入れの余地を残しておくことをすすめます。初期費用は計画段階では見えていないコストが必ず出てきます。私は自己資金に多少の余裕を持たせていたものの予算上限まで食い尽くしてしまい、もう少し借り入れに余裕を持たせればよかったと感じています。
サラリーマンと兼業しながら開業はできますか?
形式上は可能ですが、想定より負荷が高くなることを前提にしておくべきです。私は本業を続けながら開業しましたが、現場が回らない局面で本業を辞めて本腰を入れることになりました。兼業を続けるなら、現場に入らなくても回せる体制を開業時点から作っておくことが条件です。
共同経営をうまくやるコツはありますか?
役割と責任を開業前に明確にすることです。「誰がどの領域を担当し、最終決定権を持つか」を決めておくことで、日々の判断のすり合わせコストが大きく変わります。お互いの得意を活かすために組む共同経営は大きな強みになりますが、役割の輪郭を最初から明確にしておくことが前提です。
採用でいちばん重視すべきことは何ですか?
店の方針への共感です。スキルや経験より、「この店をよくしたい」という気持ちを持っている人かどうかを重視しています。共感のない採用はダラダラ働かれるリスクが高く、定着率も下がる傾向があります。なかなか巡り合えないので難しいですが、焦って妥協するとその後の苦労が増えます。