「声はかかるのに出店しない弁当屋」ではなく、判断基準がある弁当屋です。来場者数・売上見込み・コスト計算の3点が基準を超えなければ出店しない——それだけです。
その基準と、基準を超えても「出られない本当の理由」を正直に書きます。
「断り続けている」ではなく「基準で判断している」
人口5万人未満の地方都市で弁当・惣菜店を経営しています。地域でイベントやマルシェが開かれるたびに出店の声がかかります。開催者と顔見知りの場合も少なくありません。
実際には何度も出店しています。全く出ないわけではありません。ただ、誘われるたびに毎回感覚で動くのではなく、判断するためのフィルターを持っています。そのフィルターを通過した案件だけ出店します。
断るときに「もったいない」とほぼ感じないのは、感情ではなく計算で動いているからです。
まず出店のコストを正直に計算する
出店を検討するとき、最初にやるのはコストの洗い出しです。感覚で「儲かりそう」と判断すると後悔します。
| コスト項目 | 概算 |
|---|---|
| 出展料(場所代) | 約5,000円 |
| 人件費(5時間×全国平均最低時給) | 約5,300円 |
| 原価(売上10万円×原価率35%) | 35,000円 |
| 諸経費(交通・消耗品など) | 約5,000円 |
| 出店コスト小計 | 約50,000円 |
| + 店を閉める機会損失(1日あたり) | 約100,000円 |
| 実質的な総コスト | 約150,000円 |
売上目標10万円を超えることが出店の条件ですが、上の計算を正直に見ると気づくことがあります。売上が10万円でも、店を閉める機会損失(約10万円)を含めると実質トントンかマイナスです。
それでも出店するのは、採算だけが目的ではないからです。知名度、開催者との関係性、試食を通じた商品の反応——数字に出ない収穫もあります。ただし、それを理由に採算を無視した出店はしません。最低でも出店コスト分は回収できる見込みがなければ、動きません。
出店を決める7つのフィルター
声がかかったら、次の7点を確認します。これが全部OKの方向に揃わないと出店しません。
① 来場者数は200名以上か
これが最初の関門です。来場者数200名が最低ラインです。それ以下では売上10万円を現実的に目指せません。
② インスタのフォロワー数で来場者を読む
主催者や会場のインスタグラムのフォロワー数を確認します。経験上、フォロワー数の約1/10が実際の来場者数の目安になります。フォロワー2,000人なら来場者200人前後というイメージです。公式発表の来場見込みより、フォロワー数の方が実態に近いと感じています。
③ 飲食出店者の数と顔ぶれ
飲食系の出店者が多いイベントは注意が必要です。マルシェでは「ちょこっとずつ買いたい」という来場者が多く、まとまった金額の弁当を買ってもらいにくくなります。出店者リストを事前に確認し、飲食の数と種類を見ます。弁当・キッチンカーが多ければ、惣菜単品での勝負に切り替えることを検討します。
④ 開催者との面識・関係性
普段からお付き合いのある方からの依頼は、基準を満たせば出店します。ただし「お付き合いだから」だけで採算を無視した出店はしません。関係性は出店の後押しにはなりますが、採算計算を上書きするものではありません。
⑤ 場所・移動のコスト
軽自動車で運べる範囲であることが条件です。遠方になると移動時間・燃料費・体力のコストが上がり、採算が合わなくなります。
⑥ 誰が対応するか
自分が出店に行けば店は閉まります。バイトに任せるとしても、5時間分の人件費が追加コストになります。「誰が対応できるか」を確認してからでないと動けません。
⑦ 前日から準備できるか
出店は当日だけでは完結しません。準備は前日から始まります。翌日に通常営業がある場合、体力面のスケジュールも確認します。
正直なところ、弁当屋はマルシェとあまり相性がよくない
3年間出店を経験して感じていることがあります。マルシェは弁当屋にとって、構造的に難しい販売環境です。
理由のひとつは前述した「ちょこっと買い」の文化です。もうひとつは衛生面です。屋外・常温で弁当を提供するのは、食中毒リスクの管理が難しくなります。季節・気温・保冷の条件をすべて整えられる状況でないと、安心して出せません。
「マルシェに出店している弁当屋」が少ない理由は、単に声がかからないのではなく、こうした構造的な制約があるからだと思っています。出るとしたら弁当より惣菜単品での勝負を軸に考えます。
フィルターを超えても出られない本当の理由
7つのフィルターをすべてクリアしても、もう一つ壁があります。人材とレシピの問題です。
私の店は、仕込みを営業中に行いながら接客をする形で動いています。仕込みができるのが今のところ私だけです。出店に行けば店は閉まります。それが現実です。
バイトに店を任せることを検討したこともあります。ただ、「仕込みができる人材」を育てるにはレシピを渡す必要があります。レシピを安易に渡すことには慎重です。味を守ることが店の価値の核だと考えているからです。
「出店したくない」のではなく、「出店できる体制がまだ整っていない」というのが正直なところです。
将来的には「渡せるレシピ」を設計する
このままでいいとは思っていません。事業を広げるためには、自分の体をいかに空けるかが重要な課題です。
考えているのは、渡せる範囲のレシピを整理することです。味の決め手になる部分は自分で用意し、そこから先の工程はマニュアル化して任せられる形を作る——そのための設計を進めています。
それが完成したとき、出店の選択肢は今より広がります。今はその準備期間として、フィルターを使いながら厳選して出ています。
まとめ:断るのではなく、計算する
イベント出店の誘いを「断り続けている」のではありません。判断基準があって、その基準を超えたものだけ出店しています。
来場者200名・売上10万円・コスト計算——この3点を軸に判断すると、感情で動く必要がなくなります。「もったいない」と感じないのは、計算した上での判断だからです。
それでも基準を超えても出られない理由がある。人材とレシピの問題は、次の課題として取り組んでいます。
よくある質問FAQ
飲食店のイベント出店は儲かるのですか?
ケースバイケースです。出展料・人件費・原価・諸経費を合計すると、売上10万円の目標でも出店コストだけで約5万円かかります。さらに店を閉めることの機会損失(私の場合は約10万円)を加えると、実質的な総コストは15万円前後になります。感覚ではなくコストを先に計算してから判断することをおすすめします。
マルシェ出店の売上目標はどう設定すればいいですか?
私は最低でも10万円を超えなければ出店しないと決めています。算出の根拠は「出展料+人件費+原価+諸経費」の合計(約5万円)と、店を閉めることの機会損失を足した総コストです。それを上回る売上見込みがあるかどうかが判断の出発点になります。
インスタのフォロワー数で来場者数を予測できますか?
あくまで目安ですが、私の経験では主催者・会場のインスタグラムのフォロワー数の約1/10が実際の来場者数に近いことが多いです。公式発表の来場見込みよりも実態に近い感覚があります。フォロワー2,000人なら来場者200人前後と読んで判断しています。
弁当屋はマルシェに向いていないのですか?
構造的に難しい面があると感じています。マルシェでは来場者が「ちょこっとずつ」買う傾向があるため、まとまった金額の弁当より単品惣菜の方が売れやすいです。また屋外・常温での食品管理という衛生面の制約もあります。出るとしたら弁当より惣菜単品での勝負を検討します。